余命
余命宣告を受けたようなものだ。
コロナは2週間の潜伏期間を経て発症するらしい。発症したら最後、親族すら会えないときいた。
事実、死の宣告を受けたようなものだ。
そう考えついたや否や、厄介なあれが頬を伝う。
大事な人にお別れを言わなきゃいけないの?
まだみたいもの、僕を待っていることがいっぱいなのに。
よくわからないものに、よくわからないまま殺されるのが怖い。
どっと不安が押し寄せる。
もしあと2週間しか生きれないとしたら。
腫れた目をかっぴらいて、2日酔いの頭で考える。
今、会いたい人がいるなら、会いに行かなきゃいけない。
そんな少女漫画みたいなセリフを吐くまでに、とち狂った僕は、会いたい人の名前を思い浮かべる。
ああ。
僕は愛されていた。
もらったばかりでなにも返せてない。
今の僕に出来るお返しなんかたかが知れている。
まだ時間が欲しい。
大人になって、いっぱいお金稼いで、色んなことでお返しがしたい。
まだ死ねない。
余命宣告を受けても生き続ける患者がいるように、
7日後でも大声ではしゃぐ蝉のように、
鏡に残る頑固な水垢のように、
なんでもいい。
生き続けなきゃいけない。
もう死にたいなんていうのはやめたい。
誰かのために、あなたのために、僕は生きる。
こんな御託に行き着いて、漸く煙草に火をつけた。
誰かのせいにしないと生きていることすら危ういけど、でも
それでも、ぼくだ。